ヌカ団子の中にエサを入れ、上層のエサ取り小魚をかわしつつ、中層・下層にいるより大きなアイゴ(バリコ)やメジナ(グレ)を釣る、和歌山ではよく行われている釣法を紹介します。
身近な防波堤などで手軽にのんびりとやる釣りです。
時には思いもよらぬ大型サイズが期待でき、更には良い場所と時合いに巡り合えば、大漁間違い無しの非常に面白い釣りでもあります。
是非ともお試しください!
※記事タイトルでは、便宜上「ヌカ切り釣り」としていますが、【釣り】を付けずに単に「ヌカ切(ぎ)り」と呼びます。
『ヌカ切り』ってこんな釣りです!
防波堤で、例えばサビキ釣りをしていると、サビキ針には中々掛からない小魚が上層に群れているのを見たことがある人は多いはず。
地域にもよりますが、スズメダイ(オセン)や小さなメジナ(コッパグレ)などがそれで、アジやイワシを釣る為のアミエビをジャンジャン食べてしまうわけです。
(以降これら小魚を「エサ取り」と称します)
そして、海面の光の反射を抑える偏光グラスなどを使って海中の様子を良く見ると、上層のエサ取りと比べて明らかにより大型の魚が見えることがよくあります。
それが、メジナ(グレ)やアイゴ(バリコ)であって、ボラなどの更に大きな魚が見えることもあります。
これら大型の魚は上から落ちてくるアミエビの残りを食べる為に集まってきているのですが、エサ取り達より用心深いので上層にはあまり上がってこないのです。
この『ヌカ切り』という釣りは、ヌカをベースとした団子の中にオキアミなどの刺しエサを含ませ、それを海に投入。
団子が防護壁となってオキアミを守り、上層のエサ取りを回避しつつ、中層・下層にいるメジナ、アイゴ(時にカワハギ(ハゲ))などのより大型の魚を釣る釣法です。
ちなみに、「ヌカ切り」という名は、団子が底に到達する前に崩れ、ヌカが切れる(無くなる)ところからこう呼ばれており、和歌山県から始まった釣りと言われています。
同じ和歌山県発祥の団子を使う「紀州釣り」は、団子の形を保ったまま、しっかり底まで落とす釣りで、一般的にターゲットは黒鯛(チヌ)であり、ヌカ切りとは明確に異なる釣りです。
釣れる2種類の仕掛け
ここでは2種類の仕掛けを紹介します。
一つは、『延べ竿仕掛け』、もう一つは、『半遊動仕掛け』です。
状況により使え分けると良いでしょう。
それぞれの特徴は、各仕掛けの説明欄をご覧ください。
延べ竿仕掛け
この仕掛けの特徴は、シンプルで取扱いが簡単(リールが無い)で手返しが早い、ところにあります。
一方で仕掛けの長さが決まっており、少し沖の方や深い棚を狙うことはできないという制限があります。
【補足説明】
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延べ竿:長さは6m以上でも構わないのですが、6mを超えてくると200gを超える重量となり、手返しが早い釣りには向きません。
手・腕がかなり疲れます。 -
棒ウキ:200円程度の安いウキで構いません。
SASAMEからは『パーセルウキ』という商品名で販売されています。 - ガン玉:団子を付けない状態で、棒ウキの白い部分(上図ウキ参照)が全て海面下に沈んでいる状態になるようガン玉で調整します。
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ハリ:三又金具を使って、ハリを2本付ける仕掛けも人気がありますが、ここでは一対一でウキの挙動が分かり易いハリ1本のシンプルな仕掛けをお薦めします。
またカワハギを狙う場合は、専用針を使います。
半遊動仕掛け
少し沖の方や深い棚を狙いたいという場合には、この仕掛けを使います。
勿論、延べ竿仕掛けで間に合う場所でも使えますし、オールマイティで便利な仕掛けです。
大物が掛かった場合でもリールのドラグを効かせながら魚を疲れさせて取り込むといった釣り方ができるので、不意に大物が掛かるようなケースを考慮すると安心です。
デメリットと言えば、リールを使うことから、取扱いが若干複雑であり、延べ竿仕掛けに比べて手返しが少し遅くなるところが挙げられます。
【補足説明】
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ウキ止めゴム:装着は、その上の棒ウキを垂らした状態で、棒ウキトップが下のサルカンに届かないような位置にします(絡み防止)。
市場では、『からまん棒』『止マルン棒』などの商品があります。 -
オモリ:中通しオモリまたは、ガン玉を使います。
団子を付けない状態で、棒ウキの黒い部分(上図ウキ参照)が全て海面下に沈んでいる状態になるよう中通しオモリまたはガン玉で調整します。 -
ハリ:三又金具を使って、ハリを2本付ける仕掛けも人気がありますが、ここでは一対一でウキの挙動が分かり易いハリ1本のシンプルな仕掛けをお薦めします。
またカワハギを狙う場合は、専用針を使います。
配合ヌカの作り方
黒鯛(チヌ)を狙う紀州釣りの団子は、比較的水分少な目で、ガッチリ固めるのに適した配合になっていますが、ヌカ切りの場合は、海中投下と同時に団子が少しずつ崩れて落ちて行く感じになりますので、水分若干多めでウエットな感じになります。
【材料】
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糠(ヌカ)
団子のベースとなる材料で、団子落下中にヌカ煙幕をはり、魚の視覚を刺激します。
刺しエサをエサ取りから守るのもこのヌカです。 -
砂
砂利が混じるような目の粗い砂でなければ、川砂・海砂どれでも構いません。
ベテラン釣り師は砂の種類にも拘りがある人がいますが、初心者は気にする必要ありません。
砂を混ぜることにより、団子を確実に沈めます。 -
押し麦
釣り具屋で購入できます。
または食料品としてスーパーで販売されているものでもOKですが、少し割高になります。
アイゴ(バリコ)は好んで食べますが、メジナ(グレ)は見向きもしません。
ただ、押し麦がパラパラ落ちてくることにより魚に興味を抱かせることができますので、ターゲットの魚に関わらず配合しておくと良いでしょう。 -
アミエビ
集魚剤として抜群の威力を発揮します。
サビキ釣りに使う普通のアミエビでOKです。
【手順】
配合比(例)を示します。
ヌカ:砂:押し麦:アミエビ=14:8:1:4 ※重量比であり、体積比ではありません。
例えば、ヌカが3.5kgなら、砂2kg、押し麦250g、アミエビ1kgとなります。
これはあくまでも一例です。
団子をもっと早く沈めたいから砂を多くする、とか、エサ取りが多いからアミエビを少な目にするとか、その状況に合わせて調整すると良いでしょう。
作り方は次の通り、順に足していき、混ぜ合わせるだけです。
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まずはバッカンなどの収容容器に、ヌカを投入します。
投入量は、7分目位で良いでしょう。 -
続いて、砂を投入、混ぜ合わせます。
底のヌカにまで十分砂が混ざるように、底から何度もヌカをすくい上げるようにして混ぜます。 -
押し麦を投入、混ぜ合わせます。
押し麦が部分的に固まらないように良く混ぜます。 -
アミエビを投入、よく混ぜ合わせます。
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この後、10分程置いておくと、アミエビの水分がヌカ全体に行きわたり、全体がしっとりしたらOKです。
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片手に配合ヌカを掴み、握ってみて、軽く固まれば完了です。
ヌカがパサついて、簡単に崩れる場合は、少しずつ水を足して調整します。
その他、アイゴが好む「酒粕」や市販の集魚剤を混ぜるのも効果があります。
配合ヌカは、独自の配合を試みるのも楽しみの一つと言えるでしょう。
エサの付け方と団子の作り方
刺しエサは、オキアミを使います。
生タイプ、ボイルタイプ、半ボイルタイプ、どれでもOKです。
尾の根元からハリを刺し、オキアミの内部にハリを刺し込みます。
<関連記事> エサについて詳しくはこちら
ワンポイント:食いが渋い時は、オキアミの尾部分をカットし、ハリのチモトまでが完全にオキアミ体内に入るように取り付けます。
または、頭部を取り除き、小さくして魚の口に入り易くするのも効果があります。
次に団子を作ります。
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団子を投げる方の手で一握りできる位の量の配合ヌカを掴み、掌に広げます。
そこの真ん中位の場所に、オキアミを乗せます。 -
オキアミが真ん中に収まるよう気にしながら、握ります。
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広げて、もう1~2回握って出来上がりです。
握ったその手で団子を投入します。
釣ってみよう!
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団子を握った方の手で団子を投下します。
もう片方の手で竿を持ちます。
リール竿であれば、ベイルを起こし、道糸を少し送り出した状態で、指に道糸を引っ掛け、その後団子を投下します。
投げる動作はアンダースローで軽く。
場所にもよりますが、際から2-6m程で十分です。 - 団子が水面に着水後、自然と落下できるように、道糸を送り出すなどの必要なサポートを行います。
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団子の落下状態を見守ります。
団子がエサのオキアミをホールドしている状態では、ウキも一緒に沈み込みます。
ウキが30㎝程沈み込んでから、エサが完全に団子から離れて(団子が完全に崩れて)ウキが浮き上がるように団子の硬さを調整すると良いでしょう。
ウキが浮上するということは、その下にあるオキアミも浮上しているのであって、魚から見るとオキアミが動いているように見えます。
つまり一旦30㎝程沈めるということは、魚への誘いを演出していることになるのです。 -
ウキの挙動を見極めます。
一旦ウキが少し沈んで、直ぐに再浮上するような場合は、エサのみを食いちぎられているケースが多いです(このパターンのアタリがヌカ切りでは非常に多い)。
ウキが少し沈んで、その位置をキープするような場合や、急にウキが深く吸い込まれるようなアタリの時は、アワセを入れます。
但し、実際は微妙なアタリが多いのも事実。
微妙な時は遠慮なくアワセをいれましょう。 -
ハリ掛りしないのにエサだけがひたすら取られるケース(エサ取りの小魚にやられている場合が多いが、エサ取りのプロであるカワハギ(ハゲ)にエサを取られていることもあるので一概には言えない)や30分以上全く生物反応が無いときなどは、棚を変えます。
つまりウキ下を調整して、上下に刺しエサの位置をずらしてみるのです。 -
アワセを入れ、見事獲物が掛かった場合は、慌てず、竿を90度に保ちつつ、少しずつ寄せます。
必要に応じてタモ(玉網)を使って取り込みます。メジナ(口太) アイゴ -
釣り上げた魚は種類やサイズに応じて、即座にクーラーボックスに入れる、毒棘を処理する、またはリリースして、再度団子作りからスタートします。
(あると便利なフィッシュホルダー)
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海釣り全般に言えることですが、潮の動きが強いときほど、よく釣れます。
大潮・中潮などの満潮前後2時間が狙い目でよく釣れると言われています。
逆に、潮の動きが弱い、長潮・小潮などの中だるみ時間は、あまり釣果は期待できないとも言います。これらはあくまでも目安ですが、一日の中で釣れる時間と釣れない時間があるのは普通のことです。
釣れない時間は仕掛けや棚を微調整するなど研究を重ねる貴重な時間でもあります。
そのような細々とした研究の積み重ねが釣果アップの秘訣と言えると思います。
主な外道魚
ヌカ切りをしていると色々な外道が掛かります。
以下に主なものを紹介します。
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ウミタナゴ
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サンバソウ(石鯛の幼魚)
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ベラ
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黒鯛(チヌ)
その他に、スズメダイ(オセン)もエサ取りとしては多いのですが、魚体が小さく、更に口も小さい為、殆どハリ掛りすることはありません。
これら外道もヌカ切りに彩(いろどり)を与えてくれる魚達です。
外道だからといって乱暴に扱うことなく、そっと海に帰してあげましょう。
折角釣った魚、美味しく食べたい!
ヌカ切りという釣りの目的は、釣り自体を楽しむのは勿論ですが、釣った魚を料理して、美味しく食べるのも嬉しい目的の一つ。
メジナであれば、刺身は勿論、煮付けなど色々な料理に使える優良食材。
アイゴであれば、一夜干しが断然オススメ。
和歌山のおいやん(おじさん)には絶大な人気を誇る魚です。
※アイゴの背ビレ、腹ビレ、臀ビレには毒棘があります。
キッチンバサミなどでカットしてから持ち帰るようにしましょう。
※20㎝未満の小さな魚はリリースしましょう。