サバやサケなどの中大型魚の生食によりアニサキス症を発症するケースはよく見聞きします。
ところが、イワシや小アジなどの小魚で発症したケースは聞きません。
筆者は1000匹以上のアニサキスを採集した経験があります。
その経験から導かれた『理由』(一部推測)についてお伝えしたいと思います。
※この記事により、中大型魚より小型魚を生食する方がリスクは比較的低い、ということを説明していますが、リスクが全くない訳ではありません。
※小魚の生食をする場合でも中大型魚と同様に然るべき対応を行ってください。
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アニサキス症とは?
今となってはご存知の方も多いと思いますが、軽くおさらいしておきます。
生の魚介類を食べることにより体内に侵入したアニサキスが、胃壁・腸壁を突破しようと噛み付くことにより、部分的アレルギー反応が起こります。
その結果、腹部の激痛、吐き気、嘔吐、悪心などの症状が現れます。
他の関連中毒症と違うのは、のたうち回るほどの強烈な痛みがあること、および下痢症状が無いこと。
発生部位により「胃アニサキス症」・「腸アニサキス症」の2種類があります。
多くのケースは、胃に起こる「胃アニサキス症」です。
※アニサキスの生死にかかわらず体内に取り込むとアレルギー症状を引き起こすのは「アニサキスアレルギー」で、「アニサキス症」とは異なります。
小魚にもアニサキスはいる?
小魚を食べてアニサキス症になったという報告や事例は見ません。
では、小魚にはアニサキスは居ないのでしょうか?
筆者はサバなどの中型魚や大型魚だけでなく、イワシや小アジなどの小魚のアニサキス調査も沢山行ってきました。
その経験から言えることは、
小魚にもアニサキスは居ます。
勿論、一般的な海水魚でもアニサキスが多い魚、少ない魚、全くいない魚があるように、一概に小魚と言っても様々です。
魚種別に知りたい場合は、以下の記事が参考になります。
<関連記事>アニサキスが心配な人でも食べられる魚介類
以下、食卓でも馴染み深いイワシ類、アジ類の幼魚、キスの幼魚、ハタハタなどの20㎝程度までの魚をまとめて小魚を呼びます。
小魚には小アニサキス
魚類が卵から稚魚⇒幼魚⇒若魚⇒成魚と成長していくように、アニサキスも卵から数回の脱皮を経て成虫に成長します。
(筆者はアニサキス脱皮の瞬間を目撃したことがあります)
魚類がアニサキスに寄生されるのは、アニサキスを直接食べるのではなく、既に寄生されたオキアミや自分より小さな魚を食べることによります。
従って、アニサキス成虫に寄生されているイルカや中型アニサキス(第3期幼虫)に寄生されているサバ成魚をイワシが食べることが無いという当たり前のことから分かるように、小魚にはサバ成魚にいるような大き目(1.5-3cm程度)のアニサキスが寄生していることは殆どありません。
また魚そのものの成長スピードを超えてアニサキスが小魚内で急激に大きくなることもありません。
寄生するものとして、寄生宿の生命を脅かすことがあってはならないからです。
以下、小アジのアニサキス調査の一例です。
『アニサキス調査』
対象: アジ4匹(18-20cm)
スーパー購入品
結果: アニ2匹(6mm)
両方ともに死虫イワシも小アジもアニがいてもサイズが小さく既に死んでることが多い。 pic.twitter.com/lczU2qSzo0
— CFマスター (@CrazyFishingM) April 22, 2020
スーパー購入品の小アジ(18-20cm)のアニサキス調査を行った結果、6mmのアニサキス2匹(死体)を見つけました。
このように小魚に寄生するアニサキスはサイズが小さく(1cm未満)数が少ない、また、そもそも糸のように細く小さいので見つけるのが難しいものです。
小アニサキスの生命力
筆者はスーパーで売っている小魚のアニサキス調査を繰り返す内に一つの傾向に気が付きました。
それは、
ほとんどの小アニサキス(1cm未満)は既に死んでいる、
ということです。
日本の港で水揚げされた時点で既に死んでいたのではなく、水揚げ後の流通過程において冷蔵され死んだものと考えられます。
またアニサキスのサイズが小さいほど死亡率が高いことに気が付きました。
つまり人間も含めた他の生物同様に、小さいほど生命力が弱いのです。
以前に面白い調査結果が得られた例があります。
『アニサキス調査』
対象: アジ1匹(41cm)
スーパー購入品
結果: アニ 101匹(6mm-20mm)
大型は生体、小型は死体
と傾向が別れていました。大アジでこれだけのアニがいたのは初めてです。 pic.twitter.com/SFfMv8eKjo
— CFマスター (@CrazyFishingM) April 23, 2020
スーパーで購入した一匹の大アジ(中型魚)の中に、世代違いのアニサキスが同居していた事例です。
仮に全長1cm未満をA世代、1cm以上をB世代とすると、生命力が弱い小さなA世代は死体、より生命力が強い大き目なB世代はほとんど生きていました。
通常一匹の魚個体の中でこれほどアニサキスのサイズ違いが同居することは無いので大変レアなケースですが、世代により生命力の違いが顕著に表れている実例です。
同じ一匹の魚個体から見つかったアニサキスですので、その流通過程においては当然A世代もB世代も同じ強さ・時間・環境で冷蔵されていますので、良い比較事例と言えます。
小魚を食べてアニサキス症になりにくい理由
そもそもアニサキス症は生きたアニサキスが人間の体内に入ることから引き起こされます。
前項で、市場流通する小魚に寄生するアニサキスはほとんど死んでいる、と述べました。
死んでいるアニサキスを体内に取り込んでもアニサキス症にはなりません。
では、私たちのような素人が釣った小魚で、かつ十分冷やされず持ち帰ったようなケースはどうでしょうか?
この場合、元気な小アニサキスがいる可能性があります。
ですが、現時点ではあくまで推測(経験からくる感触)ですが小アニサキスはそもそもサイズが小さく人間の胃壁に噛みつくだ力が弱い(または無い)、またそもそも小魚は寄生数が少ないことから、アニサキス症の発症リスクは低いものと考えています。
魚の大きさに係わらずしっかり対策すれば間違いない
この記事では、小魚食のリスクが「比較的」低いことを述べていますが、リスクはゼロではありません。
体長20㎝未満の小魚から1cmを超えるアニサキスを発見したこともあります。
従って小魚であっても中大型魚同様にしっかりアニサキス対策は行うようにしてください。
この記事のまとめ
- 小魚(~20㎝程度まで)にもアニサキスはいるがサイズは小さく少ない
- 小さなアニサキスは比較的生命力が弱い
- 小魚の流通過程において小アニサキスはほとんど死ぬのでアニサキス症発症のリスクは低い
- リスクは低くてもゼロでは無いので、アニサキス対策は怠ることがないようにしたい